白銀ノ沙汰

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銀時の包帯姿に滾った人の為の企画
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 ふらり、ふらりと白が揺れる。人の間を縫うように歩く白を見つけたのは、ある晴れた冬の日だった。

 その日、いつものようにお妙にストーカーとういう名の求愛行動を取りに行っていた近藤はふと視界を掠めた白に目を留めた。流れるように人の間を縫うその人物に声を掛けたのは、偏に彼が知り合いだったからだけではない。彼の白い着物に紅い華が咲いていたのを見つけたからだった。名を呼んだだけでは気付かなかったのか、そのまま行こうとした彼を追いかけ腕を取る。
「おい!万事屋!待てって」
「うお…あれ、ゴリラじゃん」
「ゴリラじゃないから!それよりお前その傷…」
「あー…ゴリラの癖に鼻が良いんだな…ゴリラの癖に」
「二回も言うな!悲しくなるから!」
 兎に角手当てを。と腕を取ったまま歩き出す近藤に困った顔を浮かべたまま大人しくついて行く。近藤に会うまでに実は結構な量を出血してしまった為に先程から目の前が霞む。成るべく人の目に付かない場所へとふらつく身体を押して歩いていたのだ。
「おい、ゴリラ…」
「だからゴリラじゃねーって」
「わり、もうだめだわ」
「は?…あ、おい!万事屋!」
 へらりと笑みを浮かべたまま、ぐらりと銀時の身体が傾いた。慌てて支え呼びかけるが返事は無く、小さな呼吸音だけが聞こえるだけだった。力の抜けた彼の身体を背に乗せ、速足で屯所へと向かった。

 *  

 屯所へと半ば走る様にして帰ってきた近藤は門番に医者を呼ぶように告げるとそのまま自分の部屋へと急ぐ。医者が来るまでの間、少しでも傷の手当てをしてく為に自分の布団に銀時を寝かせるためだ。廊下を進んでいると向かいから書類を持った土方が現れ足を止める。
「近藤さん帰って…ってそいつぁ」
「トシ!いいところに、すまねぇが包帯とタオルを持って来てくれ…こいつ怪我して気ィ失っちまったんだ」
「…あ、ああ。わかった」
「頼んだぞ」
 困惑気味の土方に頼んだと早口に告げ、自室へと急ぐ。たどり着いた自分の部屋の壁に一旦銀時を寄りかからせ、布団を敷く。もう一度抱えあげ、布団へと寝かせた所で外から土方の声が掛かった。
「トシ、入っていいぞ」
「邪魔するぜ。ん、包帯とタオルと他に要りそうなやつも持ってきたぜ」
「おお、ありがとな…門番の連中に医者を呼ぶように頼んでおいたからもうすぐ来るだろうが…」
 応急処置だけでもと苦笑を浮かべながら銀時の着物へと手を伸ばす。肌蹴させた上半身の丁度左の脇腹からじわりじわりと血が滲み、その白い肌を赤黒く染めている。土方に持って来て貰ったタオルを濡らし傷口を綺麗にしていくと、その傷の程度が見えてくる。出血の割には大したことのない傷に見えた。この男の事だ、きっとすれすれで急所は避けたのだろう。
「局長、医者を連れてきました」
「ん、ああ先生こっちだ。傷は大したことねぇ見てぇなんだが…」
 近藤が言葉を濁しながら身体を退かし、医者に銀時を診せる。刀による傷口に目を留めた医者は、その皺の刻まれた額に更に線を増やした。
「…これは、毒ですな」
「毒?」
「ええ、刀にでも塗り込まれていたのでしょう。炎症を起こして血が止まりにくくなっているようですね」
 そう言いながら自分で持ってきた鞄から様々な器具を取り出し傷口に治療を施していく。傷口の洗浄、縫合、処置と流れるように動く手元は思わず見とれるほどに、医者の腕は良いものだった。
「…傷の処置も致しましたし、解毒剤も投与しましたので、あとは彼が目覚たときにこの薬を服用させてください。何、二三日もすれば元気になるでしょう」
「いつもすまねぇな」
「いいえ、これが私の仕事ですから」
 では、お大事に。とてきぱきと身支度を整え帰って行った医者を慌てて連れてきた隊士が見送りに走る。再び近藤と土方と銀時だけとなった部屋に沈黙が落ちた。
「…と、とりあえずこいつの家に電話を入れるか…あいつらも心配してるだろうしな」
「ああ、じゃあ俺が行ってくる」
 俺がここに居ても何も出来ねーしな、と言いひらりと手を振って部屋を後にした土方を見送り、はて、と考える。ここは自分の部屋なのだからもっと寛いでもいいのだろうが怪我人の手前、何となく落ち着かない。まじまじと見る機会も今までなかった目の前に男をこの際と観察することにした。まず気付いたのは寝方だった。気を失ったまま寝ている状態なのに気配がない。彼が攘夷戦争に参加していた事も、白夜叉と呼ばれていたことも彼自身によって明かされた為に、今や真選組全員に知れ渡っている。戦場に身を置いていた者の寝方というのだろうか。これでは人目のない場所で倒れでもしたら誰も気づかないのではないかと心配になる。次に目が行ったのは、包帯の巻かれた腹筋だ。普段あんなにぐーたらと過ごしているように見えるのに、そんなだらけた生活を送っているようには見えない鍛え上げられた肉体。普段鍛えている自分らとそう大差ないように見えるのだ。
「近藤さん、ついに姐さんから旦那に鞍替えですかィ?」
「っ!?総悟か…って、はぁ!?」
「そんなしげしげ旦那の身体ガン見して…きもいでさァ」
「ち、違うからね!こ、これは別に!」
 突如聞こえた声に驚いて振り向けば、とても冷たい目をした可愛い弟分が携帯片手に立っており、証拠だと言わんばかりに、先ほどの自分の行動の、一番際どい写真を見せていい笑顔を向けてきた。これをお妙さんに見られたら、と顔を真っ青にした自分に、ニタリと悪い笑みを浮かべた沖田にひくりと頬が引き攣るのを感じた。
「ま、これは顔の部分だけ土方さんに合成して隊内にばらまいてやろうっと…して、近藤さん。なんで旦那があんたの部屋で寝てんでィ」
 しかも怪我して。と赤茶色の大きい瞳真っ直ぐ近藤に向ける。
「野郎が倒れたのを近藤さんが拾ってきただけだ」
「銀ちゃん!」
「銀さん!!」
 沖田の言葉に返したのは煙草に火をつけながら疲れた顔をした土方だった。彼の後ろから飛び込んできた子供たちに近藤は目を丸くする。
「チャイナさんに新八君、どうしてここに」
「土方さんから連絡貰ってそのままここに来たんです」
「銀ちゃん大丈夫なんだろうナ!ヤブ医者に何かにうちの子見せてないだろうーナ!」
「ちょ、神楽ちゃん!」
 近藤の襟を掴みがくがくと揺さぶる神楽を慌てて止める。騒いだせいか、人数が増えたせいか今まで眠っていた銀時が小さく呻き、薄らと目を開いた。
「…うるせー」
「銀ちゃん!」
「んあ?ここ何処…」
「ここは真選組屯所ですぜ」
 まだぼんやりする頭を抱え、ゆっくりと身を起こす。ずきりと痛んだ傷に顔を顰めつつ自分の状況を把握するように辺りを見廻す。
「気分はどうだ?万事屋」
「まだぼんやりするが…まぁなんとか」
「そうか…ああ、これお前を治療してくれた医者が目を覚ましたら飲ますようにって置いて行った薬だ」
 はい、と手渡された薬を受け取りながら礼を言い、帰ろうと立ち上がる。しかし、まだ本調子とはいかず、ぐらりと身体が傾いた。
「っと、わり」
「てめぇ、ふらふらじゃねーか」
「大丈夫大丈夫、銀さんもう元気だから」
「旦那、一体何があったんですかィ?」
 沖田の質問を聞かなかったことにして帰ろうとした銀時を先ほど支えた土方が腕を掴むことで引き止める。うざったそうに顔を顰めた銀時ががしがしと髪を掻き雑ぜてただの依頼で起こった事故だと吐き捨てる。
「唯の依頼で刀傷、しかも毒付きたァ穏やかじゃねーな?」
「毒!?」
 土方の言葉に驚いたように反応した子供たちに、小さく銀時が舌を打つ。余計な事言いやがって、と睨む銀時に話すまで帰さないと不敵に笑ってみせた。
「大したことじゃねーよ、ちょっとおいたがすぎる野良犬どもに躾をしただけだ」
「ほう?」
「あー…面倒くせぇ。けーるぞ新八ぃ、神楽ぁ」
 これ以上話すつもりはないと言わんばかりに背を向けた銀時に一つ礼を述べる。怪訝そうに振り返った銀時ににやりと笑みを向ける。
「どっかの銀髪の男が、真選組を陥れようとした組織を一人でぶっ壊したと報告があったんでな」
「ほぅ。そのどっかのかっこいい銀髪の男にもし会う機会があれば伝えといてやらぁ」
 けっ、とそっぽを向いた銀時の耳が微かに赤くなっていたのを見た土方は満足そうに笑みを浮かべ、帰っていく銀時たちを見送った。

 白と銀色


(なぁににやにやしんやがんでィ土方コノヤロー)
(ばっ、にやにやなんかしてねーよ)
(銀ちゃん耳赤いアル)
(うるせぇ、これァあれだ、夕日だ夕日)



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