白銀ノ沙汰

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銀時の包帯姿に滾った人の為の企画
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愛という包帯



 白く真新しい包帯が、さっ、さっと腕に巻かれていく。初めの内は、血がじんわりと染みていたが、最後にはそれさえも隠されてしまう。巻かれたそこだけ、雪のように真っ白になった。
 日焼けが目立たない銀時の腕に、白い包帯を巻き終えると、高杉は皮肉交じりに言った。
「毎度毎度怪我して、よく死なねぇよな、お前は」
 どこか感心しているようにも聞こえる彼の言葉に、当の銀時は苦笑いを浮かべる。
「俺もそう思ってるよ。けど、意外と俺の体、丈夫なんだよなぁ」
「さすがは白夜叉様だな」
「そういうお前も、鬼の総督って恐れられてんじゃねぇか。お互い様だろ」
 七割方嫌味が含まれた言葉の応酬をしていると、高杉が急に、何かを思い出したような顔をした。
「そう言えば……お前さ」
「え? 何、突然」
 本当に唐突なことだったので、銀時は目をぱちくりさせる。
 高杉は銀時は真っ直ぐに見つめて、話し出した。
「昔、心にも包帯が巻けたらいいのに、とか何とか言ってたよな」
「え……あ、うん」
 内容も、子どもの頃というかなり昔のことで、銀時は頷くまでに数秒の時間を要した。
 彼にとっては、そう言えばそんなこともあったな、という程度の記憶だったからだ。
 高杉にこうして話題を振られなければ、すっかり忘れていた記憶。
 その記憶を、銀時はゆっくりと思い出してみた。

 まだ自分の傍に、吉田松陽がいた頃。平和な日々が何となく過ぎていたある日、高杉が浮かない顔で村塾に来た。
 いつも、ぶっきらぼうだが明るい高杉がそんな顔でここに来たことと、暫く村塾を休んでいたことが気になって、銀時は彼に声を掛けた。
「高杉、どうしたの? どこか痛いの?」
 さぁっ……と秋の風が教室を緩やかに吹き抜けて、高杉は答えた。
「違う。痛いから泣いてるんじゃない……」
 その答えに、銀時は目を丸くして驚いた。
「痛くなくても泣く時があるの?」
 銀時がそう言うと、今度は高杉が驚きの表情を見せる。今の発言に驚いているようだった。
 その表情は銀時を戸惑わせ、何か間違ったことを言ったのではないかと不安になる。
 すると高杉はどこか優しい表情で、
「痛くなくても……悲しい時、泣くだろう?」と言った。
「うん。でもそれは、心が痛いから泣いてるんだよ」
「心が痛い……?」
 銀時の発言に、高杉は訝しげな表情をした。
 当の本人は小さく頷き、言葉を続ける。
「そう。辛いことが起きて、その衝撃に心が『痛いよ』って泣いてるんだ。だから、涙が出るんだよ」
「……そういう考え方もあるんだな……心が痛いから泣く……確かにそうだな」
 高杉はそう言って何度も頷いた。銀時は、自分の考えが受け入れてもらえたことが嬉しかったが、表情は物悲しいものだった。
「でもね、俺、時々思うんだ。心にも包帯を巻けたらいいのにって。そしたら、心の痛みも和らげることが出来るのにね」 銀時が持論を述べると、高杉は何か考え込んでいる様子を見せた。
「……」
 少しして何か思いついたような顔をしたが、「いや、何でもない」と言って、何か意見を言うことはなかった。

 遠い昔を思い出し、銀時はぽつりと呟いた。
「そんなこともあったな……」
 一方の高杉は真剣な表情で銀時を見つめ、まるで告白するような声色で話し始めた。
「あの時俺は、お前に一番伝えたかったことを言えなかった……」
「な、何? 急にどした?」
 彼の雰囲気と声色に、銀時はおたおたする。初めて『好きだ』と言われた時のような気持ちになった。
「昔は、お前と俺が、こういう関係じゃなかったからな」
 そう言った直後、高杉の唇が銀時のそれに重なった。銀時はさらに慌て、頬は真っ赤に染まる。
「い……今なら、言えるの?」
「当然だ」
 銀時の問いに高杉は即答し、ニヤリと微笑んだ。
 その笑みに、銀時は嫌じゃない悪寒を感じる。
「何て言おうとしたの?」
 もう一度高杉に尋ねると、彼は先程のような真剣な表情で答えた。
「心に直接、包帯を巻くことは出来ない。だが、好いている奴を抱き締めたり、口付けをすることで、同じような効果を得ることが出来る。愛こそ、心の包帯なんだよ」
「なっ……!」
 気障過ぎる高杉の言葉に、銀時は耳まで真っ赤になる。何と返したらいいのか、分からなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、仕方ない。
「お、お前本当に気障だな! めっちゃ恥ずかしいわ! それ!」
 羞恥心のあまり叫ぶ銀時に、高杉は不敵な笑みを浮かべて、言葉を返した。
「そんな俺に心底惚れてるのは、どこの誰だったっけ?」
「うっ……」
 図星なことを言われ、銀時は言葉を詰まらせてから、
「俺です……」と小さな声で言った。
 そのまま彼は顔を俯かせ、込み上げてくる恥ずかしさに必死に耐えた。
 すると、高杉のフッと笑う声がして、温かい腕が銀時を包み込んだ。
「高杉……」
 思わず顔を上げると、高杉がばつの悪そうな表情を浮かべていた。
「ついからかっちまった……ごめんな、銀時」
「ついってお前な……まぁ別に、すんげぇ嫌ってわけじゃなかったけど」
 銀時の返答に対し、高杉はニィッと口元で笑う。
「じゃあ、また今度からかってやるよ」
「いや、遠慮しておきます」
「ハッ……手厳しいな」
 そんな他愛のないやり取りのあとに、高杉はまた真剣な表情をした。
「銀時……俺が傷付いたら、巻いてくれるか?包帯を」
 どこか寂しさも見えるその表情は、銀時の心を優しく締め付けた。
「勿論。心にも体にも、たっぷり巻いてやるよ」
 銀時は心の痛みに耐えつつ、そう言って微笑んだ。
 彼の言葉に高杉は安堵した表情を見せ、再び銀時に口付ける。
 銀時は高杉を抱き締め、心の中の不安を、忘れようとした。
 愛という包帯を、心に巻きつけて。

Fin.

コメント:---拙い作品ですが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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